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高血圧症


 概要

 血圧とは、血液が流れている心臓や血管の壁に加わる圧力です。心臓の内部、大・中・小の動脈や静脈、毛細血管など、場所によって異なります。普通にいわれている血圧の数値は、上腕部の動脈を間接的(血管の中へ針を入れて直接測る方法もある)に測ったものです。

 しかし、正常と高血圧、低血圧との間には、はっきりとした境界線が引かれているわけではありません。1978年、世界保健機構(WHO)によって決められた数値が、現在では診断の目安になっています。これは年齢、性別、民族などに関係なく決められています。

 正常は、最大血圧が140mmHg以下で、最小血圧が90mmHg以下をいいます。はっきりとした高血圧は、最大血圧が160mmHg以上、または最小血圧が95mmHg以上という数値で示されています。正常血圧と高血圧との中間を境界域高血圧と呼びます。

 なお、最大血圧(収縮期血圧、最高血圧)とは、心臓が収縮して血液を送り出している間に測定される最高の血圧値、最小血圧(拡張期血圧、最低血圧)とは、心臓が血液を送り出したあとの拡張している、いわば一服状態の間に測定される最低の血圧値です。

 高血圧には、(1)最大血圧が160mm以上の場合、(2)最小血圧が95mm以上、(3)最大・最小ともに、160mm、95mm以上、という三つのケースがあります。

 そして、(3)の最大血圧・最小血圧ともに高い場合が、一般的にいわれる高血圧です。これには、原因のはっきりしない本態性高血圧(一次性、あるいは原発性高血圧)と、腎臓や副腎の疾患などによっておこる症候性高血圧(二次性、あるいは続発性高血圧)とがあります。
本態性高血圧は、いわば血圧が高いというだけの症状です。高血圧のうち90~95%がこの本態性です。

 原因と症状  

 本態性高血圧の原因は、まだはっきりつかめていません。しかし、次のような因子があるとき血圧が上昇しやすいことは知られています。

 (1)体質・遺伝(高血圧、脳卒中の家系)。
 (2)ナトリウムの過剰摂取(食塩や重曹など)。
 (3)肥満。
 (4)ストレス。
 (5)寒冷。

 血圧が高くなるのは、直径0.1~0.2mmほどの細い動脈が収縮するのが主な原因ですが、なぜ細動脈が収縮するのかはわかっていません。ホルモン、神経、血管壁細胞の働きがかかわっていることは確かですが、どういうかかわり方をしているかがつかめていないのです。

 ナトリウムが高血圧の誘因になることは知られていますが、どのようにして血圧を上昇させるかはよくわかっていません。次のような説があります。

 高血圧患者は細胞内のナトリウム濃度が高いといわれ、これは血管壁の細胞にもあてはまります。ナトリウムの多い血管壁は水分を吸収してふくらみ、内腔を狭くします。これが血圧を上げるメカニズムの一つです。

 一日3g以上の食塩を摂れば血圧に影響する、といわれるくらいです。

 血圧は、心理的ストレスの影響を強く受けます。おそらくストレスが自律神経や内分泌系に影響して、血圧を上昇させるのだと思われます。
 また、年をとるにつれて、収縮期血圧はある程度高くなるのが一般的です。加齢とともに動脈の硬化が進むことが原因と思われます。

 高血圧の症状は、めまい、頭痛、肩こり、後頭部・頸部のこわばりや違和感などです。動脈硬化が進むと心臓・脳・腎臓・目の網膜などで合併症が見られるようになります。


高血圧の漢方薬治療
 漢方では同じ高血圧であっても、一人一人の証(体質)に合わせた漢方薬を選びます。結果的に原因の違いに対処した根本治療が期待できます。リバウンドの心配はなく体質に合わせることで副作用も起こりにくくなります。


●実証型の高血圧
 がっちりした体格で、のぼせが強く、顔面が紅潮し、強い頭痛、耳鳴り、頭のふらつき、めまい、動悸、肩こり、口の中の苦味、尿の色は濃い黄色で量が少ない、大便は固くて出にくい、舌の色は赤みが濃い、舌苔は黄色、冷たい水が飲みたい、などという熱の症状があるタイプには三黄瀉心湯や降圧丸、便秘しないものには黄連解毒湯を用います。
 この処方は熱をさます力が強いので、冷えに弱く体力の無い人には使いません。


 目の充血や痛み、目やになどがあるときには、竜胆瀉肝湯を用います。肥満のある場合は防風通聖散や大柴胡湯を併用します。

●虚証型の高血圧
 高血圧が長く続いている人や、虚弱な人、老人などの場合には、虚証型の高血圧が多く見られるようになります。

 症状は、頭のふらつき、持続性の蝉の鳴くような耳鳴り、耳のつまり感、目の疲れ、足腰のだるさや痛み、口の中の乾燥、気分が落ち着かずイライラする、のぼせやすい、寝つきが悪く眠りが浅いなどです。


 漢方でいう肝腎の衰弱がみられ、これに神経の興奮症状をともなう状態です。治療法は肝腎を補強しながら精神神経の興奮を鎮静化させる処方を選びます。
 漢方薬は、七物降火湯や釣藤散、のぼせの強いものには知柏地黄丸(瀉火補腎丸)不眠症があれば天王補心丹を服用します。


●肝欝型・ストレス型の高血圧
 精神的ストレスによって起こった高血圧は、神経の緊張をほぐすことによって治すことができます。現代社会はストレスが多く、神経は緊張して交感神経―副腎系が興奮した状態が続くようになります。
 交感神経は血管を収縮させ直接血圧を上昇させます。緊張状態が長びくと、上昇した血圧がだんだん固定化されるようになって高血圧と診断されるようになります。


 普段からイライラしやすく、怒りっぽくなったり、寝つきが悪くなる、胸や上腹部がつかえる、よくため息をつくなどの症状があります。女性では月経不順や月経前緊張症候群などの症状がみられることもあります。
 漢方薬は、抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯、大柴胡湯、加味逍遥散などの中から体質に合っているものを服用します。


瘀血型の高血圧
 高血圧の症状の中には漢方で“瘀血”とよんでいる重要な病理状態があります。瘀血とは血行不良の状態を言い、加齢、ストレス、運動不足などさまざまな原因があります。
 そのなかでも加齢によって生じる瘀血は動脈硬化や高血圧とのかかわりが深く、瘀血を取り除く活血化瘀の漢方薬を続けることで血圧が正常化することはめずらしくありません。


 中年以後、全身の老化が進むにつれて血管の老化である動脈硬化が少しずつ進行していきます。血管の弾力性が低下してくると、硬くなった血管を通して全身に血液を送るために心臓の強い血液拍出力が必要になって血圧が高くなります。
これが動脈硬化性高血圧です。血管の弾力性の低下は血行不良(瘀血)を生じさせます。これに高脂血症が加わると、狭心症、脳卒中、腎機能障害などの合併症がさらに起こりやすくなります。


 血液をサラサラにして血行を改善し瘀血を除去する活血化瘀薬を使って治療します。
 活血化瘀薬の服用は高血圧や動脈硬化の改善だけではなく、二次的に起こる心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、脳出血や脳梗塞など脳卒中の予防にもなります。


 代表的な活血化瘀薬には漢方製剤の冠元顆粒や冠丹元顆粒。薬草では丹参、紅花などがあります。

 漢方薬局からのアドバイス  

 病院で血圧の薬は一生飲むように指導されるケースが多いのか、高血圧の根本的な対策を求めて漢方相談にいらっしゃいます。

 本態性高血圧の方なら、肥満や運動不足の解消、減塩や禁煙、アルコールの制限などライフスタイルを改善しながら体質に合った漢方薬を半年程度続けることで、かなりの方が改善し正常化されて血圧の薬も不要になります。


 本来が生活習慣病なのですから、降圧剤を飲み始めてもあきらめずに生活習慣の改善(養生)を続けることが大切です。
 東洋医学は養生を中心とした医学であり、漢方薬は養生だけでは治せない部分をカバーするためにあります。


 漢方薬と病院の降圧剤は飲み合わせにはなりませんので、現在もらっている降圧剤を併用しながら、少し時間をかけてでも高血圧体質そのものを改善することをお勧めします。