痔
概要
肛門の病気の中で、一番多いものが痔核~脱肛です。
痔核とは、歯状線の上下の細かい静脈の塊のふくらんだものであり、痔核がいくつもできて外にとび出し、それにつれて周囲の健康な部分まで肛門外にとび出し、肛門全体がでんぐり返しになったような状態のことを俗に脱肛といいます。
原因・症状
痔核(いぼ痔)は肛門の内側にある静脈叢が鬱血してこぶ状にふくらんだ状態で、漢方では「瘀血」の病態に属します。
便秘、飲酒、香辛料の摂り過ぎ、喫煙、冷え、下痢、妊娠、出産、胃腸の虚弱などさまざまな事が原因となります。
肛門の歯状線より内側にできたものを内痔核、外側にできたものを外痔核とよんでいます。
外痔核の血流は大循環により大静脈を経て直接心臓に帰ります。肛門部に出来た血豆のような物で、初期の頃からしこりとして触れることが出来ます。
知覚神経支配域に属するのでズキズキ痛むのが特徴です。
内痔核の血流は門脈循環により肝臓を経て大静脈に入り心臓へと帰ります。自律神経支配の領域になるのであまり痛みを感じません。
内痔核の初期のころは肛門の外に出てくることはなく、ときに出血する程度(Ⅰ度)ですが、進行するにつれ肛門の外に顔を出すようになります。
脱出しても自然に戻る状態(II度)から、押し込めば入る状態(Ⅲ度)、押し込んでもすぐに出てきて肛門の外に出っぱなしになる状態(Ⅳ度)まで程度によって4段階に分類されています。
痔核が脱出したままになると分泌した粘液が下着を汚したり肛門周囲に痒みが出たりします。重症になると嵌頓痔核と言って痔核内に血栓ができて炎症による激しい痛みがおこり日常生活が困難なまでになります。
出血の程度はさまざまで、紙に付着する程度から、ぽたぽたと出血したり、流れるように出血することもあります。痔からの出血が長く続くと貧血の原因になります。
痔の漢方薬治療
● 痔核(いぼ痔)の漢方薬治療
肛門部の鬱血を取る活血化瘀の働きのある生薬が配合されてる処方が治療の中心になります。
炎症が激しく痛みや腫れを伴う場合には、レンシンをおすすめします。レンシンの主成分の蓮茎(野生のハスの茎)が痛み、炎症を数日間で鎮めます。
活血化瘀薬は肛門部の鬱血を取るだけでなく、痔核内にできる血栓の予防や治療をしてくれるので併用する事をお勧めします。
代表的な活血化瘀薬には、折衝飲、冠元顆粒、血府逐瘀丸、桂枝茯苓丸、桃核承気湯などがあります。
痔核が肛門の外に出て戻らず、痛みのひどい時には、麻杏甘石湯を頓服します。
これは本来は肺に作用して咳を止める漢方薬ですが、痔の痛みにもよく奏効することが知られています。また甘草を煎じた温湯に患部を浸したり温湿布をすると痛みが和らぎます。
痔の出血が多い場合には止血作用の強い芎帰膠艾湯を用います。
この処方は血行改善と増血作用のある四物湯をベースに止血作用を強める艾葉と阿膠を加えた処方です。
その他、出血を止める生薬に田七人参や薬用炭があります。
●脱肛と直腸脱の漢方薬
脱肛は大きくなった痔核が肛門の外に脱出したものをいいますが、脱肛と混同されやすいものに直腸脱があります。
直腸脱は排便時に直腸粘膜の部分がめくれて脱出することをいい、筋力が弱く疲れやすい虚弱体質の人や高齢者、子どもに多く発生します。
直腸脱を治すには、まず便秘の状態を解消した上で、脾胃(胃腸等の消化器系)を丈夫にして筋肉の力を高める補中益気湯や当帰建中湯を服用します。
●裂肛(切れ痔)の漢方薬
裂肛(切れ痔)は主として便秘によって硬くなった便が肛門を傷つけることが原因で起こります。
排便時に強く痛み、紙につく程度の少量の出血があります。悪化すると排便後も数時間痛むようになります。痛むので排便を我慢してそれがまた便秘を招いているという悪循環になっている場合が多く見られます。
原因となっている便秘の状態を改善して便を柔らかくする漢方薬を服用することで比較的簡単に治療できます。
●外用薬
痔の種類を問わず紫雲膏が良く効きます。紫雲膏を厚めに塗るか、紫雲膏の座薬がおすすめです。
痔ろう
●原因と症状
痔ろうは、肛門の歯状線にある肛門腺という粘液を分泌する腺が細菌感染によって化膿(肛門周囲膿瘍)することが原因で起こります。
肛門周囲膿瘍になると肛門の外側が腫れて激しく痛み高熱が出ることもあります。
この場合は局部を切開して膿を出すことで楽になります。自然に破れて膿が出ることによって楽になる場合もあります。
膿の通ったトンネルのことを瘻管といいこの瘻管が形成された状態を痔瘻とよんでいます。瘻孔からは膿が出て下着を汚したり、しこりや違和感を感じたりします。
●痔瘻の漢方薬
漢方では軽症の痔瘻や緩解期に化膿や化膿体質を改善する荊防排毒散、五味消毒飲、排膿散などを服用します。それでも膿汁貯留と排出を繰り返し根治が困難な場合には外科的な手術が必要になります。